ニュージーランドで園芸・造園の仕事をしているからか、僕のもとには時折こんな質問がやってくる。
「NZでいちばん好きな植物は? / 面白い植物は何ですか?」
この質問はとても返答が難しくて(苦笑)、真夏を彩る「クリスマスツリー(ポフツカワ)や、高山植物の「マウントクック・リリー」や「エーデルワイス」、捕食者から逃れるために成長するごとに姿を変える「ランスウッド」などなど・・数え上げればきりがないほど話のネタになるNZ固有の植物はあるのだけど、こと秋~冬の季節に関しては、僕は
「今はスリーキングス・ヴァインが咲いているから見てほしい!」
と返事をしている。ニュージーランドの冬はあまりお花がなくて寂しい季節でもあるし、もし冬に旅行などで(特にNZ北島に)滞在することがあれば、ぜひ植物園などに行って冬に咲く花「スリーキングス・ヴァイン」を見てほしいと思う。この花はわざわざ時間を割いて見に行く価値がある。今日はNZ冬の花・スリーキングス・ヴァインの魅力を解説してみよう。
最後の一株から蘇ったスリーキングス・ヴァイン
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正確な名前はTecomanthe speciosa。通称Three Kings Vine(スリーキングス・バイン)と呼ばれている、ニュージーランド固有のお花だ。
Vineとは蔦の意味で、その通りこのスリーキングス・ヴァインはツタを出してほかの植物や障害物をよじ登る”クライマー”だ。そしてスリーキングスというのは、この植物が発見された場所の名前のこと。1945年の調査で、NZ北島のスリーキングス島の断崖絶壁に生えていた一株が新種と認定され、この名前がついた。そして、自然下のスリーキングス・ヴァインは、この一株以外は見つかっていない(!!)。当時スリーキングス島はヤギなどの外来動物が猛威を振るっており、柔らかい低木の植物はほとんどが食べつくされてしまっていた。だれも近づけない断崖絶壁に運よく生えていた株は、正真正銘、地球上に残された最後の一株だったのだ。
白くて長いお花は、だれに受粉してもらうため?
以前『NZの花はなぜ白い!?花の色が教えてくれる、知られざるNZのヒミツ』の記事でも書いたことがあるのだけど、僕は新しいお花を見かけるといつも
「このお花は誰に花粉を運んでもらいたいんだろう~?」
とついつい考えてしまう。
そのお花が黄色ならミツバチなどの昆虫をターゲットにしているのだろうし、赤色なら鳥に花粉を運んでもらいたいんだろう、そして白色なら夜に目立つから夜行性のガあたりを狙ってお花を咲かせているはずだ・・・そんな風に考えを膨らませると、周囲の自然を少しだけ理解できたような気がして散策が一層楽しいのだ。
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さて、スリーキングス・ヴァインのお花を初めて見た時、僕の頭の中は「?」「?」「?」でいっぱいになった。色は白だから夜行性の生き物をターゲットにしているのだろうけど、カタチはトランペット型だから蛾の口では花の奥まで届きそうにない・・じゃぁ、夜行性の”誰”に花粉を運んでもらいたいんだろう・・!!??
家に帰って急いで図鑑で調べてみると、テコマンスの”お相手”は、なんと「BAT」!そう、コウモリだった。
ニュージーランドには現在でも2種類の在来コウモリがいる。「short tailed bat」と「long tailed bat」だ。どちらも数が急激に減っていて滅多に見ることはできないが、かつてはNZ全土にたくさん生息していたらしい。スリーキングス・ヴァインは、競争相手の少ない冬の夜に花を咲かせることで、コウモリから確実に受粉をしてもうよう独自に進化した植物だったのだ。
オークランドの港でも見れる!NZ北島北部に分布するスリーキングス・ヴァイン
スリーキングス・ヴァインは最後の一株から奇跡的に生き残った植物なので、天然ものは絶滅状態で、未だにそのステータスは「Nationally Critical (=絶滅一歩手前)」のままだ。ただし、園芸品種としてはとてもポピュラー。嬉しいことに現地の植物園やちょっとした公園などでも、植えられたお花を見ることができる。
最も分かりやすいのは、オークランドの港沿いにあるレストラン街「ヴァイアダクト」だろう。海沿いにハーバーブリッジ方面に歩いていくと、こんな建物があって(写真参照)、階段に絡みつくように生えているスリーキングス・ヴァインが見られる。
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もしくは、オークランド植物園、そしてオークランドドメインの大温室となりにあるNative Plants gardenでも見ることができる。お花の時期は晩秋~初冬、だいたい5月~7月ごろ。もしNZの初冬にオークランド以北に行くことがあったら、ぜひちょっと歩いてこの面白い植物を探してみてほしい。
Last Updated on 2022年9月26日 by 外山みのる
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